多様化するニーズに対応するため、現代のモノづくりには多品種少量生産が求められています。多品種少量生産で利益を確保するためにはどういった対策が必要なのでしょうか。多品種少量生産のメリット・デメリット、生産性改善の対策などをご紹介します。
多品種少量生産へとモノづくり体制の変化
多品種少量生産という生産方式はどういった特徴があるでしょうか。その特徴と、なぜ多くの企業が多品種少量生産に切り替えていったのか、背景を見てみましょう。
ニーズに合わせた臨機応変な生産方式
多品種少量生産とは、主に製造業において使われ、生産を「何をどれくらい作るか」という観点で分類した生産方式のひとつです。企業または生産拠点単位で、多くの生産品種を持ち、1品種当たりの生産量が少ない生産方式を言います。この生産品種と数量は顧客からの注文に合わせて決定し受注生産となる場合が多く、顧客のニーズに合わせた臨機応変型の生産方式と言えます。
多品種少量生産が増えた理由と背景
高度経済成長期の日本では、同様の製品を大量に生産する少品種大量生産方式が主流でした。日本が誇る質の高いモノづくりによって想定する製品寿命の長い製品を市場に提供し、顧客の要望に応えながら改良していく方式がとられていました。「同じ製品または同じシリーズのものを長く使ってもらいたい」というスタンスをベースとしてモノづくりが行われていたのです。
しかし、近年は顧客ニーズの移り変わりが早く、製品が寿命を迎える前に次のニーズが浮上する場合が多く、ヒット商品の短サイクル化が進んでいます。また、技術の進化によりさまざまな機能を実現できるようになったことも多様化をあと押しし、多くの人が同じ製品を使うということは少なくなってきました。
このように、ニーズの短サイクル化と多様化によって売れる製品も細分化し、多品種少量生産が主流の時代へと変移してきたのです。
多品種少量生産で何が変わる？
多品種少量生産と少品種大量生産を比べたとき、それぞれの特徴によってどういったメリット・デメリットがあるのでしょうか。
多品種少量生産のメリット
多品種少量生産には次のようなメリットがあります。
- ターゲットの絞り込み
品種を細分化することで、これまで単一の品種では対応できなかったニーズにも応えることができます。これにより、「どういった層をターゲットとして製品を作り提供するか」といった絞り込みができ、需要予測の精度が向上につながります。 - オンリーワンの製品作り
顧客のニーズに合わせ生産品種を多様化しながら、より最適な製品を作ろうと創意工夫することでイノベーションの可能性が大きくなります。こういった創意工夫とイノベーションの積み重ねにより、他社にはないオンリーワンの製品が生み出されていきます。 - 在庫の削減
需要に合わせて必要とされるものを必要とされる数だけ生産することになり、在庫を抱えるリスクは減少します。在庫の削減は、在庫の保管スペースや管理のコスト削減、売れ残りによる損失の削減へとつながっていきます。 - 売れ筋商品のリスク分散
ひとつの品種が売れなくなったとしても多様な生産品種があるため、そのときに売れる品種を増産することで売り上げの大幅な落ち込みを回避することができます。このように、少品種に比べリスクを分散する効果もあります。
多品種少量生産のデメリット
多品種少量生産にはメリットもある半面、デメリットも存在します。
- 生産効率の低下
1カ所の生産拠点で多品種を生産するということは、生産ラインの切り替えや段取りに要する時間が増加することを意味します。これにより実際に生産している時間という意味での稼働率は低下します。また、段取り時は生産ライン稼働時に対し投入人数も多くなりがちなため、生産補助人員も含めた1人当たりの生産効率はさらに低下することになります。 - 生産管理能力への依存度
受注生産が中心となる多品種少量生産において、納期を守りながら生産品種の切り替えを繰り返して生産していくためには、生産計画の調整にシビアなコントロールが求められます。生産ラインのスケジューリングだけでなく、資材発注や出荷の手配など、生産管理能力への依存度が高くなります。 - 作業者の教育
多品種少量生産では、毎日のように別の製品を作ることになります。各工程の作業担当者や品質チェック担当者は多くの品種についての作業手順を身に付けなければなりません。また、それに合わせた作業手順書や品質管理基準も必要になります。多品種少量生産では作業者の教育も課題となります。 - 設備コストの増加
多品種少量生産では類似性の低い全く異なる製品を作ることも想定されます。その場合、1品種の製品を作るために使っていた道具や設備が別の製品の生産では使えず、新たな道具や設備を用意しなければならない場合もあります。設備コストが増大しすぎると常に売れるものを作っていたとしても利益につながっていかないリスクがあります。 - 必要な経営資源の増大
生産する品種が増えると、ヒト・モノ・カネ・情報・時間など経営資源の必要量も増大します。経営資源の活用について最適化する工夫が必要となります。
多品種少量生産で生産性を高めるには
多品種少量生産では、顧客のニーズという面ではメリットが目立ちますが、コストの面ではデメリットが目立ちます。では、多品種少量生産で生産性を高めるためにはどういった取り組みをするべきなのでしょうか。
それには、多品種少量生産のメリットをうまく活用しながらデメリットになる部分を最小化していくことが重要となります。
受注頻度を細分化して対応を変える
多品種少量生産のデメリットを最小化していくためには、臨機応変で可変的な生産管理が必要となります。具体的には、受注する頻度と1回の受注のロットをいくつかの段階に分けて、それぞれの対応を決めていく方法です。
1つの品種について受注の頻度が高い場合、その品種の専用ラインの常設を検討し、段取り時間の削減を図るのが生産効率向上に有効です。反対に、受注の頻度が少なければ受注生産での対応が有効です。
ときには在庫を持つことも検討
受注の頻度が特に短期間で細かい場合は、在庫を持つことで段取りコストの削減を図る必要もあります。
原則的には在庫を少なくできるのが多品種少量生産のメリットのひとつではありますが、在庫をゼロにする代わりに段取りコストばかりがかさむようでは本末転倒となりかねません。このため、適正在庫量を見極めて一定量の在庫を持つことが全体として見れば最適なケースもあるのです。
段取りの効率化と改善努力を続ける
多品種少量生産において、コストを増大させる最も大きな原因が段取り頻度の多さです。ここから考えると、段取りの効率化が生産効率に直結することがわかります。
具体的には、機械・作業を停止して行う「内段取り」と、生産を継続しながら生産ラインの外で行う「外段取り」について改善する手法があります。
内段取りと外段取りの配分改善、内段取りのさらなる効率化、作業分析によるムダ取りなど、常に段取りの効率化に向けた改善を続けていくことが大切です。
システムの導入で効率化
多品種少量生産では、綿密で適切な在庫管理や工程管理が重要となります。そのため、在庫管理システムや生産管理システムなどの導入により改善される可能性もあります。資材や原料の発注から製品の集荷まで、全体の業務がスムーズになり効率化されるためです。
そのためには、現状の課題とシステム導入による効果を十分に検討し、自社の運用に見合う必要なシステムを選定する必要があります。
生産効率化にICTソリューション
このように多品種少量生産が増え、より効率の高い生産方法が求められるなかで、現場での段取り改善やシステム導入による生産管理の改善が進められてきました。しかし、それらにプラスする形でさらに新しい効率化手法が注目されています。
それが、多くのモノづくりの現場ですでに導入され、未導入の現場でも注目度の高いIoTやAIによるソリューションです。
例えば、多品種少量生産では作業者の教育不足による人的ミスが起こりやすいという課題があります。この課題に対し、プロジェクションマッピングと画像センサーを組み合わせた作業ミス防止システムにより、教育時間の短縮と不良流出率低減に成功した事例があります。
また、AIに不良品判定ルールを学習させ、外観検査の効率化を図っている事例は、検査精度向上と無人化を同時に達成しているICT活用の好例です。
管理システムの改善においても、AIが組み込まれた工程管理システムの活用により、最適な工程で生産効率を高めている事例があります。
さらに多品種少量生産が進むと考えられるこれからのモノづくりにおいて、こういったICTを活用したソリューションが必須となる日も近いのではないでしょうか。
今後も進むことが予想される多品種少量生産
多品種少量生産が増えた理由とそれについてのメリット・デメリット、これからの対策についてご紹介しました。
社会が豊かになりニーズが多様化すると、多品種少量生産はさらに進むと考えられます。このとき、生産性改善に向けた努力を続けていかなければ段取り時間の増加、設備コストの増大などにより利益確保が困難になる可能性があります。多品種少量生産の社会に対応できるよう、AIやIoTの活用を視野に入れた新たな対策の検討が必要なのではないでしょうか。
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